みんなの仕事場 > オフィスデザイン事例 > コクヨ「THE CAMPUS」の最新アップデート フロアが解決するオフィスの課題[前編]

コクヨ「THE CAMPUS」の最新アップデート フロアが解決するオフィスの課題[前編]

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コクヨの働き方の実験場「THE CAMPUS」(※)

コクヨの働き方の実験場「THE CAMPUS」(※)


2022年11月の「2023コクヨフェア」に合わせ、自社社員が実際に働くコクヨのオフィス実験場「THE CAMPUS」のフロアの一部がアップデートされました。フェアのコンセプトは、「be Unique. ワクワクを、つぎつぎと」。ハイブリッドワーク時代の新しい働き方を実験し、新たな空間やプロダクト、サービスなどが発表されています。今回はアップデートされたTHE CAMPUSのフロアを紹介していきます。








■THE CAMPUSがアップデート

コクヨの「THE CAMPUS」については、2022年にも取材記事を掲載しています。



参考:「THE CAMPUS」各フロアの紹介記事(2022年3月)
 コクヨのリノベーションした品川オフィス「THE CAMPUS」の多様な働き方の鍵を握る、ファシリティマネ-ジャーの新しい役割



ライブオフィスとは自社が開発した製品を自ら利用する様子を一種のショールームとして社外に見学してもらう施設です。コクヨでは1969年からライブオフィスに取り組み、全国30拠点で展開していますが、中でも最大のライブオフィスは品川の「THE CAMPUS」内の品川ライブオフィスです。見学には予約が必要ですが、実際に社員が働いている「オフィスの実験場」を見学できます。


上記の記事を執筆した時点では、南館で公開されていたのは8階まででしたが、その後、9~11階のオフィスが追加されました。



前回記事では南館の8階までをご紹介した(※)

前回記事では南館の8階までをご紹介した(※)



THE CAMPUSで働いているのはコクヨ社員の皆さんですが、ちなみにコクヨもリモートワークと出社のハイブリッドワークが主体となっています。コロナ前は82.8%だった出社率は、2020年5月の緊急事態宣言時には2.3%まで落ち込み、2022年6月時点では50.5%、まで上がってきているそうです。労務的な制度としては、「在宅中心型」「バランス型」「出社重視型」という働き方のポートフォリオが設定されており、上長と相談しながら選んで働き方を決めています(大半はバランス型か出社重視型だそうです)。


それでは、さっそくTHE CAMPUSのアップデートフロアをご紹介していきましょう。 ご案内してくださったのは、同社の原田怜さん(ワークプレイス事業本部 スペースソリューション本部デザイナー)、芥川梨枝子さん(ワークプレイス事業本部ECマーケティング部)です。




■つながりを作り、"経営の関係人口"を増やす

フロア全体はカフェのようなフリーアドレスゾーンになっており、中央にはカウンター、そしてその奥に役員会議室がある(※)

フロア全体はカフェのようなフリーアドレスゾーンになっており、中央にはカウンター、そしてその奥に役員会議室がある(※)



原田さん  最初に、11階から見ていただきましょう。
(※現在、11階はお客様のご見学をご遠慮しているとのこと)


― ここは新しくできたフロアですね?


原田さん  11階と10階は2022年上期に完成しました。当時、コロナ感染拡大のためにハイブリッドな働き方が始まる中で、「つながりの希薄さ」という課題が顕在化しはじめていました。そこで11階では、経営と社員がつながるHUBになる場というコンセプトで、「耕す」というフロアテーマにしました。空間コンセプトとしては「Timeless Comfort」です。誰もが来て働きやすい、堅苦しくない、心地よい空間を目指しました。この建物は築40年超と結構古いのですが、スケルトンの状態がとても印象的な空間なので、それをあえて活かし、歴史に対するリスペクトを表現しています。



原田怜さん(ワークプレイス事業本部 スペースソリューション本部デザイナー)

原田怜さん(ワークプレイス事業本部 スペースソリューション本部デザイナー)



― ちょっと高級なカフェのようなイメージですね。配置に余裕があります。


原田さん  レイアウト的にはカフェに近いのですが、コロナ禍で設計したため、ゆったりとした席配置で距離を広めに取っています。


― 家具もカジュアルですね。


原田さん  このフロアの主な家具としては弊社の家具や、子会社が取り扱いしているもので構成をしています。


芥川さん  オフィス向けの家具より、ホーム家具のブランドが多いですね。


原田さん  昇降できて肘掛け付きで背も高い「タスクチェア」は、もちろん人間工学的に座り心地や体勢が良好なのですが、いかにも「働くためのもの」という感じで、かた苦しい印象を与えてしまいます。それを払拭するためにホーム家具を入れています。


― 奥のほうにすごく大きなテーブルがありますね。カフェのようです。


原田さん  今のところ一般社員は座れないルールですが、たしかに居心地が良さそうだと僕も思っていました。カフェの大きなテーブル席のラグジュアリー版の雰囲気です。


― 「経営と社員がつながる」というのは、具体的にはどのような課題意識ですか?


原田さん  一般社員からすると、経営層はどうしても心理的ハードルがあり、遠い存在に感じられてしまい、思想の乖離が生じてしまいます。経営の関係人口を増やしていくための、経営層と社員のつながりの場として11階を構築したわけです。


― 「経営の関係人口を増やす」というのはユニークな考え方ですね。経営と現場の壁という問題意識があり、関係人口として経営層とコミュニケーションをもつ人を増やすということなのですね。


原田さん  経営層と一般社員がつながることで、会社の未来を見すえた挑戦などに一体で取り組んでいきます。当社の中期ビジョンである"森林経営"を同時多発的に進めていくためにも、経営層と一般社員のつながりを増やしていくことが必要だと考えています。


― "森林経営"とは?


原田さん  弊社の事業は大きくライフスタイル領域(グローバルステーショナリー事業等)とワークスタイル領域(ワークプレイス事業等)に分かれており、通販のカウネットなども運営しています。森林経営というのは、そうしたコクヨの強みを活かしながら、今後さらに新規事業や新規領域開拓によって新しい"木"の芽を育てて森林にしていくという2030年に向けた長期ビジョンです。それには経営層と社員が一体とならなければならないと考えています。


芥川さん  コクヨは長い歴史の中で、お客様の気持ちに共感するところから課題を見出し、様々な新しい価値を生み出してきました。森林経営モデルというのは、そういった「共感共創」によって体験価値を拡張し、家具・文具・流通の"一本杉"だった経営から、"森"のように多様な事業の集合体にしていこうというビジョンです。


― なるほど。


芥川さん  そのビジョンを実現させていく上では、お客様との共感共創の最前線にいる社員と、意思決定を行う経営者の距離も縮めていく必要があります。そういった背景もあり、今回大きくリニューアルしてすごくアットホームなインテリアになったわけです。


入って正面にカウンターがあり、ハロウィンやクリスマスなどには、カウンターを使ってパーティを開いたりしました。ハロウィンに社長が仮装して出てきたこともあります(笑)。



おしゃれなカフェのような大きなカウンター

おしゃれなカフェのような大きなカウンター



原田さん  「マーケティング大学」という社内のサイドプロジェクトの懇親会などもここで行っています。文化的なイベントや季節イベントなど、社員が集まれる催しを開催しています。働くという軸でイベントを企画すると、経営者の講演など働き方の勉強会のようになってしまいますが、それではつながりは生まれにくい。もっと人間的・文化的なつながりのほうが経営と社員の強いつながりを生むのではないかと思います。





― イベントを企画するのはどこの部署ですか?


原田さん  H&C(ヒューマン&カルチャー)という人事総務の部署がイベントを主催していますが、企画自体はボトムアップで社内のアンダー30から有志を集めて作っています。そういう企画が受け入れられる風通しの良さがあり、うまく回っているように思います。


― 楽しそうですね。


芥川さん  カウンターの奥は役員会議室になっています。ただ、室内は一般的な会議室よりソフトな雰囲気にしています。


― テーブルも角丸で木目だし、カーペットもカジュアルな感じですね。


原田さん  おっしゃるとおりです。「カジュアルだけど少し上質」を狙いました。役員会議室も、堅苦しい空間にしないようにと社長から言われました。そこで大きく窓をとり、外とのつながりを表現しています。秘匿性の高い内容の会議はカーテンを閉めますが、基本的にはオープンで見通しがいいことがこの役員会議室の特徴です。


― なんとなく話し声も柔らかく聞こえます。


原田さん  会議室の外は天井が高いのですが、ここは天井をグッと下げていてカーペットも敷いているので、声がしっかりと聞こえるようになっています。


― この会議室は、一般社員は使わないわけですね?


原田さん  役員会議に呼ばれれば一般社員が入ることもありますが、一般社員同士の会議室として使えるようにはなっていません。


― 会議に一般社員が参加するときは、会議室の外で待機しているのでしょうか?


原田さん  そういうイメージで作っていたのが会議室裏のカウンター席です。会議前や待機時間、会議後に少し資料を整理したりするために利用できるエリアにしています。





― なるほど。「経営と社員をつなぐ」という目標は達成できていますか?


原田さん  会議室の外は一般社員も利用可能です。今日も若手社員が座っていますが、この空間を単純に居心地がいいと感じてくれています。このフロアができてから、社長という存在がそれまでのような遠いものではなくなりました。


― 役員のためのフロアではないと。


原田さん  はい。私の所属する設計部隊もよくここを利用しますし、いろいろな部門の人間がここで仕事をしています。


芥川さん  役員も個室があるわけではなく、全館でフリーアドレスです。役員も普通にフリーアドレス席に座っていたりします。ただ、このフロアには役員用のシェアテーブルがあり、機密性の高い仕事にも従事できるよう役員が占有しやすくしています。




■プロジェクトのあり方を問い直し、プロジェクトを超えたコミュニケーションも促す

プロジェクトを自在に配置できるフロア(※)

プロジェクトを自在に配置できるフロア(※)



原田さん  こちらが10階です。フロアテーマは「創る」で、「コクヨらしいプロジェクトのスタイルを模索するための実験場」と謳っています。


― プロジェクト、ですか。


原田さん  ここ数年、これまでの「メンバーシップ型の働き方」から、「プロジェクト型の働き方」に変わり、「プロジェクト」という言葉をよく聞くようになりました。弊社でも部門を横断して領域を拡張していくようなプロジェクトが増えています。


このフロアは、そうした多発分散的に発生するプロジェクトを柔軟に受け止められる先進的な空間として作りました。部門を越えたつながりを作っていくということに焦点を当て、コクヨらしいプロジェクトのスタイルを作ることにつながっていくと考えています。


― プロジェクトチームがいくつも入る部屋ということですね。


原田さん  はい。閉じた部屋を作るのではなく、単純にプロジェクトチームの領域を規定できるようにしています。Slackのルームを活用して各プロジェクト同士を繋げたりしており、秘匿性よりもオープンさを重視しています。音などは漏れてしまいますが、互いに助け合いながらやっていくという思想のプロジェクトルームです。いろいろな人の声が聞こえてくるオープンな環境の中で、プロジェクトの居場所が確保されています。


― 具体的には、どんな仕掛けがあるのですか?


原田さん  まず、家具開発をメインワークとするものづくりメンバーと連携して、プロジェクトブースを構成する可動式の家具を作って構成しました。


芥川さん  植栽やソファーなど全部キャスターが付いていて、フレキシブルに動かせるので、ファシリティコストも抑えられます。収納も全部キャスターが付いています。



キャビネットも可動

キャビネットも可動



植栽も可動

植栽も可動



オブジェも可動

オブジェも可動



ゴミ箱も可動

ゴミ箱も可動



ソファーやテーブルも可動

ソファーやテーブルも可動



カスタムベース

ブースを構成する格子状の「カスタムベース」。ホワイトボードも磁石でグリッドに吸着可能。コートハンガータイプ、吸音材入りタイプ、書籍を置ける棚付きタイプなど、入居しているプロジェクトが選んで自由にカスタマイズし、特色を出せる



― とにかくすべて可動なんですね。


原田さん  軽重はありますが、基本的には動かせます。ゴミ箱やアート、植栽、ソファーセットなどは「ファンクションブース」と呼んでいるのですが、プロジェクト同士の間に置いて、レイアウト調整もしながら、双方がそれを使いながらコミュニケーションの輪を広げていくことができます。


― なるほど。


原田さん  さらに、空間自体の照明なども紐づかせて、プロジェクトの状態やフロア内の状況を可視化しています。たとえばエリアごとに照明の色を変えたり、エリアの場所や大きさを変えたりできます。このフロア様に開発したiPadのアプリケーションで簡単に操作できます。



エリアマスター席。このiPadでエリアの区分けを操作できる





原田さん  今の設定では、「ノーマル」「ウェルカム」がグリーン、「集中」はブルー、「シークレット」はオレンジ、「イベント」はピンクなど、エリアのモードや状態を表す運用をしています。また、集中するときには暗くするなど、働き方に応じて環境の照度も変えられます。


― すごい......広さや形を自由に変えられるから、スペース効率がいいのですね。


原田さん  おっしゃるとおりです。ポチポチと変更して、陣取り合戦のようにエリアを決めていきます。ただ、本当に陣取り合戦にならないように、申請を上げてもらい、フロアマスターがエリアを調整するルールです。


― 申請して、認められるとこの部屋にエリアを作ることができるわけですね。


原田さん  プロジェクトとしての特性条件をルールで決めています。ひとつは領域を拡張するプロジェクト、もうひとつは部門横断しているプロジェクト。その2点を満たすプロジェクトだと、3ヶ月・6ヶ月などの単位で申告でき、必要に応じて延長もできます。先日も4プロジェクトが入って来たので、全体を玉突きで全部調整したようです。


― なるほど。管理が大変ですね。


原田さん  今までのオフィスは、運用のことは考えても、回していくということはできませんでした。昨今はABWもかなり浸透していますので、運用がきちんと伴っていないと働く場が回っていきません。管理する運用者がいないと場の鮮度が落ちたり、使われ方がグチャグチャになったりするので、人を使ってしっかり管理しているわけです。


― プロジェクトのメンバーなら、社外の人も入れるのですか?


原田さん  ほとんどのプロジェクトでは実際にパートナーさんが入って一緒に働いています。"領域拡張"が条件ですから、当社が持っていない知見を持っているパートナーさんと組むことが多いわけです。


― 平均で何プロジェクトぐらいが入っている感じですか?


原田さん  本格稼働してからまだ半年ほどですが、今は9プロジェクトが入っています。設計の想定では8プロジェクト+αでしたから、賑わっている状態と言えます。


― なんだか文化祭前夜の学校みたいな雰囲気ですね。ワクワクします。


原田さん  僕の所属するプロジェクトは最初からここに入居しているのですが、使用しているうちに他プロジェクトともコミュニケーションが生まれるという経験をしています。お土産をおすそ分けしたり、引っ越しの作業を手伝いあったり、いろいろな会話が生まれる仕組みになっていることを実感しました。





木製の段ボールを積層したテーブル

木製の段ボールを積層したテーブル。仮設材でよく使われるラーチ合板を使うなど、家具にも工夫がある。「アイデアや感性を刺激できるように、見たことがないような素材をあえて使っています」(原田さん)



― 普通の会社では、よくプロジェクトが会議室を占領して、中の音は聞こえず、隣のプロジェクトと会話することもありませんよね。


芥川さん  外から見ると、「あのプロジェクトルームは何をやっているんだろう?」という感じですよね。


― スペース効率もいいしコミュニケーションも良好と。


原田さん  プロジェクトにかかわる人が気持ちよく働けて、プロジェクトを可視化することでお互いに刺激し合える環境です。同じ温度感の人で構成されるフロアなので、相乗効果も期待できます。





まだ6階の「育む」フロアが残っていますが、以降は後編でお伝えします。お楽しみに。



後編へつづく






取材協力


コクヨ株式会社

文房具やオフィス家具、事務機器を製造・販売。組織とワークスタイルの変化によってオフィスに求められる価値が大きく変容していることを受け、オフィス家具を提案するだけにとどまらず、オフィスデザインを通した働き方改革を追求している。オフィス設立の検討段階から関わり、コストシミュレーション、レイアウト設計、運用・維持にいたるまで、さまざまなフェーズで働く環境の計画プロセスを提案し、ワーカーのクリエイティビティを高められるオフィス空間の総合デザインをめざしている。


コクヨ株式会社コーポレートサイト[外部リンク]


編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2023年1月13日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。

オフィス家具を探す

家具カテゴリー トップはこちら 家具カテゴリー トップはこちら